至仏山保全対策

至仏山は、植生の学術的価値の高さから尾瀬の自然を特徴づける自然環境の一つであり、高山植物の宝庫としても知られ多くの登山者が訪れます。しかし、過去には登山道周辺で植生荒廃や裸地化が進行し、極めて深刻な問題となっていました。このため、尾瀬保護財団及び関係者は、至仏山の保全を重要な尾瀬の課題のひとつとして、さまざまな対策を行っています。

至仏山の概要と保全対策の経緯

至仏山は、尾瀬国立公園の西方に位置し、主稜線の東側は国立公園特別保護地区及び国の特別天然記念物に指定、西側は群馬県自然環境保全地域に指定され、特異な地質に基づく植生の学術的価値の高さから、尾瀬ヶ原の高層湿原と共に、尾瀬の自然を特徴づける二大自然環境の一つとなっています。また、高山植物の宝庫として知られ、日本百名山にも数えられており、登山シーズンには多くの登山者が訪れます。
そのため、登山道周辺では植生荒廃や裸地化が進行し、極めて深刻な問題となりました。こうした中で、特に裸地化が進んだ場所に対しては、平成元年から8年間にわたり東面登山道の閉鎖と登山道再整備が実施されるとともに、植生回復を中心とする保全対策が進められてきました。
このような状況を踏まえ、平成14年5月に尾瀬保護財団及び関係者は「至仏山保全緊急対策会議」を設置し、至仏山の保全対策の検討を開始しました。同会議は、平成15年3月に「至仏山保全対策基本方針」を策定し、その中で、保全対策の実施に当たっては至仏山の問題の現状や原因を科学的に検証する必要があると結論づけました。このため、平成15・16年度に群馬県が主体となって、学識経験者で構成する調査委員会を設置し、植生及び地生態、利用動態に関する調査(至仏山環境共生推進計画調査)を実施しました。
至仏山保全緊急対策会議は、この調査結果を踏まえ、平成19年3月に「至仏山保全基本計画」を策定しました。その後、保全対策を効果的に行っていくため、後継組織として、平成19年9月に「至仏山保全対策会議」を設置しました。
至仏山保全対策会議は、至仏山保全基本計画に沿って残雪期の登山道閉鎖、東面登山道の「上り専用」化などの諸対策に取り組んできました。さらに平成21年7月には、登山道の付け替えが検討されている区間を対象に、現登山道の継続利用と、迂回ルート候補地の環境負荷に関する科学的調査を企画・実施し、検討区間の登山道のあり方について総合的な評価を行うため、「至仏山環境調査専門委員会」を設置しました。至仏山環境調査専門委員会は4か年にわたり調査し、平成27年3月に検討の結果を「尾瀬国立公園 至仏山登山道迂回案の妥当性検討報告書」にまとめました。平成27年度以降、至仏山保全対策会議の委員による現地視察によりこの報告書の記載内容を確認し、新工法の実証試験に向けた課題整理等について具体的な検討が進められました。
そのような中、平成30年に群馬県尾瀬保護専門委員から、現ルートの利用の維持を妥当とする「至仏山における登山道沿い荒廃地の植生現況と対策について(意見)」が提出されました。これを受け同年度の至仏山保全対策会議において、登山道付け替えに関する検討は一旦凍結となりました。
その後、至仏山保全対策会議における検討と現地調査を経て、植生状況の回復が認められることから、現在は現ルートを維持するという方針のもと、今後、荒廃が拡大しないよう適切な対策を講じるべく検討が進められています。

至仏山保全対策基本方針

至仏山保全基本計画

至仏山保全対策会議設置要綱

尾瀬国立公園 至仏山登山道迂回路案の妥当性検討報告書

至仏山保全対策実施計画の概要(関係機関の取組)

至仏山保全対策会議の各構成員は、至仏山保全基本計画に基づいて、植生保護や利用の適正管理などの、貴重な自然を保全していくため、次の諸対策を実施します。

1. 登山ルートの付け替え検討 【見直し】

登山ルート付け替えの妥当性等について長年の検討の結果、付け替えは実施せず、現ルートを維持するという方針のもと、今後、荒廃が拡大しないよう適切な対策を検討します。

2. 残雪調査 【継続】

4月中旬に、至仏山保全対策会議の委員が実際に登山して現地調査を行い、残雪状況を把握した上で、残雪期(GW前後)の対策を検討します。

3. 残雪期(GW前後)の対策 【継続】

残雪期(GW前後)に薄雪地帯の植生保護と利用者の安全の観点により、重点植生保護区域と危険区域を設定し、山スキーヤーなどにチラシを配布して適切に誘導する啓発活動を実施します。

4. 残雪期の登山道閉鎖 【継続】

薄雪地帯の植生保護および登山道周辺の荒廃防止の観点により、 5月7日から 6月30日まで至仏山の全登山道を閉鎖します。 ※残雪の状況によって閉鎖期間が変更になる場合があります。

5. 山開き直後の利用の注意喚起( 7月 1日~ 7月中旬)【継続】

7月 1日の山開き直後から 7月中旬頃まで登山道の一部に雪渓が残っているため、登山者が雪渓を避けて登山道周辺の植生へ立ち入らないよう、注意喚起を行います。

6. 東面登山道の「上り専用」化 【継続】

下りの利用が植物を傷つけて荒廃を広げてしまう原因となるため、東面登山道を「上り専用」(ただし山ノ鼻から森林限界までの区間は除外)とします。

7. 荒廃地の修復・登山道の整備 【継続】

植生回復のための基盤整備及び登山道の整備・荒廃防止対策等を実施します。

8. トイレ対策【継続】

至仏山にはトイレがなく登山時間が長いことから、登山口にてトイレを済ませることや、携帯トイレの携行を啓発します。また、巡回時等にトイレットペーパー等の散乱が無いかなど、可能な範囲での状況確認を実施します。

9. 至仏山保全対策会議の開催

至仏山保全対策会議を開催し、実施効果、計画の見直し等を全体で確認・検討します。

尾瀬保護財団の取り組み

尾瀬保護財団は、至仏山保全対策会議の事務局運営等、至仏山保全対策の重要な役割を担っています。

ア 至仏山保全対策会議の事務局運営

至仏山保全対策会議の委員による残雪調査(4月中旬)、至仏山保全対策会議の開催に必要な事務局運営を行っています。

イ 残雪期(GW前後)の対策時の現地への職員派遣

現地へ職員を派遣し、山スキーヤーなどを適切に誘導するための誘導ポール案内看板の設置・撤去、最新情報発信と啓発活動のためのパトロール等を行っています。

ウ 広報活動

残雪期(GW前後)の対策、残雪期の登山道閉鎖、山開き直後の利用の注意喚起、東面登山道の「上り専用」化、トイレ対策等について、チラシ・リーフレットの作成・配布、インターネットを通じた情報発信等の方法により、広く広報・啓発活動を行っています。

エ 受託事業

群馬県から業務を受託して、東面登山道の上部において植生回復のための基盤整備及び登山道の登山道の荒廃防止対策等を行っています。

オ 環境調査

登山道沿いの3個所に積雪深計を設置して、残雪期の積雪量を把握しています。

2. 課題

至仏山保全対策会議は予算をもたない組織であるため、諸対策の実施にあたっては各構成員のそれぞれが必要な人的・経費的負担をしています。 尾瀬保護財団の取り組みも、すべて自主財源を充てていますが、昨今の低金利のため基本財産の運用益には限りがあり、諸対策を充実させていくためにも、みなさまからの御寄付をお願いしています。